はじめに:今、教育が問われる時代に現代社会は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった「VUCA(ブーカ)」という言葉で形容される、極めて先行き不透明な時代に突入しています。昨日の正解が明日の正解である保証はなく、前例や常識に縛られていては社会の変化に取り残されてしまう──そんな時代を、私たちは生きているのです。加えて、人工知能(AI)の進化は、私たちの働き方、暮らし方、そして人間の役割そのものにさえ根本的な変革をもたらそうとしています。もはや「正確に処理できる」「覚えている」といった能力は、機械が人間を凌駕する分野となりつつあり、私たちが教育に求めるべき価値観は、大きな転換期を迎えています。これまでの教育モデル――すなわち「与えられた知識を効率よくインプットし、既存の正解を導き出す能力を育むもの」は、もはやVUCAとAIの時代において、決定的にその有効性を失いつつあります。前例に従うだけでは対応できない課題、そして正解のない問いに立ち向かう力こそが、いま求められているのです。では、次代を生き抜き、地域社会が持続的に発展していくために、私たちはどのような力を育むべきなのでしょうか? それこそが、株式会社NextIWATEが提案する「アントレプレナーシップ教育」の真の価値です。この教育は、単に「起業家を育てる」ためのものではありません。私たちのビジョンは、若者が自らのアイデアで地域に新しい価値を生み出し、挑戦が挑戦を呼び込む“循環”を生み出すことにあります。そして、その挑戦が一過性で終わることなく、地域に根ざした持続可能なエコシステムとして機能すること。そのために私たちは、「現場主義」「若者起点」「共創設計」という3つの強みを軸に、日々挑戦を続けています。本稿では、「なぜ今、アントレプレナーシップ教育が必要なのか?」という問いに対して、世界的な潮流と地域の現実という両面からアプローチし、私たちNextIWATEが実践している教育モデルの全体像を提示していきます。これは教育の話であると同時に、社会づくりの話でもあります。そして何より“挑戦する文化”をどうやって社会に広げていけるかという、私たち一人ひとりの選択の物語でもあるのです。第1章:未来を生き抜くための"OS" - VUCA時代とAIがもたらす変化VUCA時代の到来と労働観の変容VUCA時代とは、これまで当たり前だった価値観や常識が次々と覆されていく時代です。計画通りに物事が進まず、過去の成功パターンが通用せず、明日の出来事すら見通せない。そんな世界では、既存の枠組みに安住するのではなく、自ら問いを立て、仮説を試し、変化を味方につける力が必要です。つまり、「安定」や「正解」が保証されない社会においては、自律的に動き、柔軟に変化に対応しながら、自ら価値を創り出す力――すなわちアントレプレナーシップこそが、個人・組織・地域にとっての“新しいOS”なのです。これは決して起業家に限った能力ではなく、すべての人にとって必須のマインドセットです。組織の中で新しい提案をする人、地域で活動を始める人、家庭で新しい教育の在り方を模索する親――あらゆる人にとって“自ら仕掛ける力”が求められる時代なのです。AIとの共存、求められる人間の役割AIの台頭は、多くのルーティンワークや情報処理タスクを自動化する可能性を秘めています。そのため、AIの利用は業務の効率化や新たなビジネスモデルの開発に繋がることが期待されています。一方で、多くの職業がAIによって代替される可能性も指摘されていますが、その議論は、職業全体ではなく、個々の「タスク」に着目すべきとの反論もなされています。この変革期において、人間が担うべき役割とは何でしょうか。それは、AIが代替できない、人間ならではの創造的な業務です。AIとの共存が本格化する今後は、課題の本質を見抜く「問題発見力」や、その解決策を導き出す「的確な予測力」、そして「革新性」が一層求められていくと考えられています。これまでの日本の企業社会や学校教育で重視されてきた「注意深さ」「ミスがないこと」「責任感・真面目さ」といった資質は、確かに日本の強みの一面を形成してきましたが、これらの特性はAIが最も得意とする領域と重なります。アントレプレナーシップ教育は、単なる特定の職業に向けた専門教育ではなく、このAI時代を生き抜くための、言わば個人の「OS(オペレーティングシステム)」をアップデートするものです。従来の教育では、与えられた問題を正確に解く能力が重視されましたが、これからの時代に求められるのは、自ら問題を発見し、答えのない課題に挑み、周囲を巻き込みながら新たな価値を生み出す力です。従来の社会で重視されたスキル現代に求められるアントレプレナーシップの資質与えられた指示を正確に実行する力自ら目標を設定し、物事に進んで取り組む力(主体性) 知識のインプットと暗記力身近な社会課題の本質を見抜く力(課題発見能力)失敗やミスをしない完璧主義新しい価値を生み出す力(創造力・イノベーション能力)組織のルールや規律を遵守する力意見の違いや立場の違いを理解し、協働する力(柔軟性・チームワーク)上司や先輩に相談する傾聴力他者に働きかけ、巻き込む力(働きかけ力)業務に特化した専門知識既存の知識を応用し、常に学び続ける意欲この対比が示すように、AIの進化は、人間が本来持つべき創造性や協調性といった能力に回帰する必要性を明確にしています。アントレプレナーシップ教育は、この回帰を促し、個人が自律的に未来を切り拓くための土台を築くことに他なりません。第2章:アントレプレナーシップの真価 - 起業家精神を育む教育とはアントレプレナーシップの再定義「アントレプレナーシップ」と聞くと、多くの人が「一部の起業家のための特別な能力」として捉えがちです。しかしそれは、現代におけるこの概念のごく一部の側面にすぎません。私たちがここで再定義したいのは、「アントレプレナーシップ=変化を恐れず、自ら動き、社会に価値を生み出すための姿勢」であるということ。これは起業家だけのものではなく、企業に勤めるビジネスパーソン、地域のリーダー、学生、教育者、そして家庭の中で子どもを育てる保護者にまで必要な“社会を動かすための力”なのです。特に現代のように、社会が急速かつ不確実に変化している局面においては、「決められた役割を果たす人」よりも、「自ら新しい役割を創り出せる人」の存在が圧倒的に求められています。アントレプレナーシップ教育が育む能力私たちNextIWATEが実践するアントレプレナーシップ教育では、以下の6つの力を中心に育成しています。これは単なるスキルリストではなく、どのような時代であっても人間らしく、自律的に生き抜くための土台でもあります。1. 課題発見力「なぜこの問題が起きているのか?」「本当に困っている人は誰か?」――こうした問いを深掘りし、現象の背後にある構造や本質にたどり着く力。統計やデータだけでは捉えきれない“生の声”に触れるフィールドワークやインタビューを通じて、問題を“自分ごと”として理解する感性を養います。2. 創造力・イノベーション能力アイデアを“ひらめき”だけで終わらせず、検証し、実装可能な“価値”に変えていくプロセス。この力はデザイン思考やプロトタイピングなどの手法を通じて、繰り返し実践の中で鍛えられていきます。特に、実現困難と思える課題に向き合ったときこそ、創造力が試されます。3. 共創力・チームワーク異なる背景や価値観を持つ他者と、対話を通じて共にビジョンを描き、共に動く力。正しさを押し付けるのではなく“違いを力に変える”という姿勢が鍵になります。共創には、「自分にはない視点を受け入れる柔軟さ」と「自分の思いを語る勇気」が同時に求められます。4. 実行力・自己管理能力アイデアや計画を実際のアクションに落とし込み、やりきる力。そこには、タイムマネジメント、優先順位の判断、フィードバックを受け入れる力、そして時には“孤独の時間”とも向き合う強さが含まれます。特に地域課題の解決には、数ヶ月〜数年単位の粘り強さが求められるのです。5. 巻き込み力(エンゲージメント力)一人でできることには限界があります。自分の思いを他者に伝え、共感を引き出し、仲間を増やしていく力。これはプレゼン能力やSNS活用といったテクニックだけではなく、言葉の“熱”や行動の“一貫性”といった人間的な信頼の積み重ねに支えられています。6. 学び続ける力(リフレクション)一度の成功に満足せず、変化に応じて自分自身をアップデートし続ける力。これは、失敗や壁に直面した時にこそ発揮される資質であり“やり直せる人”こそがこれからの社会の主役です。教育の鍵は「文化」にありアントレプレナーシップ教育を成功させる上で、最も重要な要素の一つは、カリキュラムの内容だけではなく、その基盤となる「文化」です。生徒や若者の意見やアイデアを否定せず、自由に発言できる環境を整えることが創造的な思考を促進します。また、「失敗を認められる雰囲気」を醸成することも極めて重要です。失敗を恐れずに挑戦できる環境があってこそ、若者はリスクを負ってでも新たな試みに取り組むことができます。従来の教育が「正しい答え」を求めることに重きを置くのに対し、アントレプレナーシップ教育は「答えのない課題」に挑むことを奨励します。これは、教育が目指すべきゴールを、単なる「知識の貯蔵」から「価値の創造」へとシフトさせることを意味します。株式会社NextIWATEが推進する実践的な教育モデルは、この「失敗を認め、挑戦する文化」を、教育機関、企業、学生という多岐にわたるステークホルダー間で具体的に共有する場となっているのです。第3章:挑戦が循環するエコシステムへ - NextIWATEの「共創設計」若者起点の実践が、地域の風景を変える株式会社NextIWATEの取り組みは、「理念」ではなく「現場」に根ざしています。私たちの最大の強みは、教室ではなく地域、テキストではなく実体験、年功序列ではなく“若者起点”という姿勢で、アントレプレナーシップ教育を再構築している点にあります。代表の上野裕太郎をはじめ、創業期のメンバーは全員が一関工業高等専門学校の学生出身。「若者に可能性がある」ではなく、「若者こそが社会を変える主体である」という信念が、NextIWATEのすべての活動に通底しています。私たちが信じるのは、若者を“教育する”という発想ではなく、若者が“社会を動かす力を持っている”という前提から始まる共創です。その信念を象徴する実践が、「企業ドクターキャンプ」です。「企業ドクターキャンプ」という実践の場私たちの具体的な取り組みの一つが、株式会社フォーバルとの業務提携によって展開していく「企業ドクターキャンプ」です。このプログラムでは、主に地域の高専生が「企業ドクター」として、中小企業が抱える経営課題の抽出・分析・改善提案を行います。学生にとっては、座学だけでは得られない「生きた学び」となり、地域企業の現場に直接触れることで、自身の学びが社会に貢献する喜びを体験します。一方、企業にとっては、若者の斬新な視点やデジタル技術に対する知見を事業に取り入れる機会となります。このモデルは、学びを一方的な「消費」ではなく、企業と若者が共に価値を創造する「共創」へと転換させるものです。「共創の交差点」としての役割この教育モデルを支えているのは、産・官・学・金・民を横断する私たちの強力なネットワークです。株式会社NextIWATEは、若者の挑戦を支える「共創の交差点」として機能しています。NextIWATEの「共創ネットワーク」と具体的な取り組みパートナー連携内容連携目的一関工業高等専門学校探究教育・人材育成・研究開発連携 (代表の上野が特命助教を兼任)学生が地域企業の現場で学び、挑戦できる仕組みづくりを推進株式会社フォーバル「企業ドクターキャンプ」による若手人材育成、中小企業支援サービス共同開発DX推進・人材育成支援における地域共創モデルの確立一関信用金庫起業支援、新サービス「ビジバナ」の共同開発地域の金融機関と連携し、若者の起業や地域企業の成長を支援株式会社グローカル、 株式会社東北地域商社支援機関・民間企業・自治体・金融機関との戦略的なクロス連携地域全体を巻き込んだ持続可能な経済圏づくりを推進このテーブルが示すように、私たちのモデルは単独の機関では成し得ない、包括的なソリューションを提供しています。教育機関、民間企業、金融機関、地域住民が有機的に連携することで、若者の成長と地域企業の活性化という二つの課題を同時に解決する「持続可能な仕組み」が形成されているのです。この多角的な連携こそが、私たちの理念である「次の岩手、日本を担う一役に」という使命を果たすための原動力となっています。結びに:次の岩手、日本を担うために現代におけるアントレプレナーシップ教育は、もはや特別なものではなく、AI時代を生き抜く個人の力を育むための必須の「教養」であり、人口減少社会に挑む地域再生のための「戦略的投資」であると私たちは確信しています。それは、単に知識を教えるだけでなく、若者が自ら考え、行動し、多様な人々を巻き込みながら課題を解決する力を養うものです。株式会社NextIWATEの使命は、単に若者を育成することではありません。それは、「挑戦のバトン」を若者に渡し、彼ら自身が地域の未来を再構築していくという、循環するエコシステムを創り上げることです。私たちは、既存の枠組みにとらわれず、現場で若者と共に汗を流し、多様なパートナーと共創することで、岩手から全国へと広がる「持続可能な地域共創モデル」を築いていきます。誰もが「挑戦できる」と信じられる社会の実現に向けて、私たちの挑戦は続きます。このコラムが、未来を担う若者、そして彼らの挑戦を支えるすべての人々にとって、一歩踏み出すためのきっかけとなることを願ってやみません。