2025年12月1日、株式会社Next IWATEは河合塾グループの学校法人河合塾学園と「探究的な学びに関する連携協定」を締結した。この協定は2027年4月に岩手県一関市で開校予定のドルトンX学園高等学校を中心に地域・企業・行政と連携した新しい学びの仕組みをつくっていくためのものである。単に学校と地域企業が協力するという話ではない。学びの場そのものを地域に開き、若者が地域の現実の中で考え、動き、試し、周囲と関わりながら育つ仕組みを一関から形にしていこうとする取り組みである。私たちNext IWATEにとってこの連携は新しい案件の一つではない。むしろこれまで地域で積み重ねてきた実践が教育という文脈の中で一つの大きな形になり始めた出来事だと受け止めている。私たちは「次の岩手、日本を担う一役に」を掲げ、地域企業、自治体、教育機関、学生、金融機関などと関わりながら、地域課題の解決と次世代人材の育成に取り組んできた。現場に入り、話を聞き、状況を整理し、構想だけで終わらせず実装まで伴走する。この姿勢は教育の領域でも変わらない。1.地域は「支援される場所」ではなく、「学びが立ち上がる場所」地方は、「課題の多い場所」として語られる。人口減少、高齢化、人手不足、事業承継、交通、医療、教育格差など地域には解かなければならない課題がある。ただ、私たちは地域を単に困りごとの集まる場所として見ていない。働くことや暮らすことの現実があり、人の思いやしがらみや工夫が凝縮されている場所だと考えている。だからこそ地域は、若者にとって非常に密度の高い学びの場になる。教科書ではきれいに整理されている問題が、現場では複数の事情と感情と制約を抱えながら存在している。その複雑さに触れること自体が探究の出発点になる。これは机上では得られない学びである。私たちが地域で取り組んできた仕事も、まさにそうした現場に立つことから始まっている。企業支援ではいきなり答えを持ち込むのではなく、まず現場の実態を整理し何が見えていて何が見えていないのかを明らかにする。自治体との連携では制度や計画だけでなく、そこに暮らす人の声や実際に動く担い手との接点を重視してきた。この感覚はドルトンX学園が目指す学びとも深く重なっている。学校の中だけで完結する学びではなく、地域に根差し、出会い、問いを立て、現実に触れながら考える学び、私たちはそこに強い親和性を感じている。2.ドルトンX学園は、なぜ注目されているのかドルトンX学園高等学校は、河合塾グループが2027年4月に岩手県一関市花泉町油島で開校を予定している私立広域通信制高校である。しかし一般的な通信制ではない。学生全員が親元を離れ、様々な拠点の寮で学友とともに生活していく全寮制に近い形である。特徴は、オンラインの教科学習と国内外の地域拠点での滞在型探究学習を組み合わせた、日本初の「地域拠点滞在×通信制」のハイブリッドな学びにある。学校名にある「X」には、未知数や変数という意味とともに「自分自身が何者にもなれる」「一人ひとりが一歩踏み出すことで社会や未来は変わっていく」という思いが込められている。この学校が注目される理由は、単に新しい高校だからではない。教育の枠組みそのものを問い直しているからである。従来の学校教育では、学びの中心は教室であり社会との接点は体験学習や職場見学のように限定的なものになりがちだった。しかし、ドルトンX学園は学びの軸そのものを地域社会との接続に置いている。午前はオンラインで教科学習を進め、午後は実際の地域に出て探究活動を行う。しかもそれは一度きりの体験ではなく、数か月単位で地域に滞在しながら行われる構想である。ここにあるのは「社会に出る前の準備」としての学びではなく、社会の中で学ぶという発想である。つまり高校生活そのものが社会とつながるプロセスになる。これは生徒にとっても地域にとっても大きな意味を持つ。若者は地域の課題や魅力に直に触れ、地域は若者の視点や行動力に触れる。その往復の中で学びも地域も変わっていく可能性がある。3.Next IWATEがこの連携で担う役割では、こうした学校に対してNext IWATEは何を担うのか。ここがこの連携の核心である。私たちは学校だけでは届きにくい地域の現場を知っている。また企業が何に困り、どこで止まり、どのような可能性を持っているかを知っている。さらには行政が果たすべき役割と制度だけでは埋まらない現場の隙間を見てきた。だからこそ私たちは、教育機関、地域企業、自治体、地域住民、若者のあいだに立ち、翻訳し、つなぎ、動かす役割を果たせる。実際に連携協定では、Next IWATEの役割としてドルトンX学園高等学校の拠点滞在プログラムの企画・実施、探究学習プログラムの共同企画・実施、地域や企業課題を題材とした学びの開発と実践を定めている。生徒が地域に入り込み、企業や行政と協働して課題に挑む実践型学習をどう設計するか。地域企業の実課題をどう教材化するか。フィールドワークやプロジェクト学習をどう単発で終わらせず、継続的な学びとして体系化するか。こうした部分を弊社未来共創教育推進部が担う。教育の世界では、理念は語れても現場の接続でつまずくことが少なくない。企業側から見れば「学校に何をどこまで開示し関与すればよいのか分からない」、学校側から見れば「地域と繋がりたいが、誰に相談しどう設計すればよいのか分からない」、この溝は意外に大きい。私たちは、その間に入って互いの言葉を合わせ、無理のない形で具体に落としていく。理念を現場に着地させるための実装担当。それがこの連携におけるNext IWATEの役割だと考えている。4.地域企業にとって、この連携は何をもたらすのか教育との連携というと地域企業にとっては「協力依頼が来るもの」「学びのために場を貸すもの」と捉えられがちである。しかし、私たちはこの関係を一方向のものだとは考えていない。むしろ地域企業にとってこそ大きな価値がある。地域企業が日々抱えている課題は売上や採用だけではない。情報発信が苦手、業務が属人化している、経営者の頭の中にある考えが社内に共有されていない、新しいことをやりたいが言葉になっていない。そうした課題は、外部の若い視点と出会うことで初めて輪郭がはっきりすることがある。高校生だからこそ見える違和感がある。慣れきってしまった現場の当たり前に「なぜそうなっているのか」と問いを投げかけられること自体が企業にとっては価値になる。しかもドルトンX学園が目指すのはただ職場見学をする学びではない。地域や企業の実課題に向き合い、自分たちなりの仮説を立て、対話し、試し、振り返る探究である。そこでは、企業は教える側である前に共に考える相手になる。地域企業にとっては、自社の仕事や技術、課題、地域における役割を次の世代に通じる言葉で見直す機会になるはずである。人材採用の文脈だけでなく自社の存在意義や今後の方向性を見つめ直す機会としても、この連携は意味を持つ。一関や岩手には外から見ると魅力が分かりにくいが、実は非常に面白い現場が多い。地域に根ざした中小企業、地場産業、一次産業、福祉、観光、商店街、地域活動。こうした現場は見方を変えればすべて探究の入口になる。私たちはそこに眠っている学びの素材を掘り起こし、教育の文脈に翻訳し、地域の価値として再提示していきたいと考えている。5.若者にとっての価値は、きれいな成功体験ではなく「現実に向き合った経験」にあるいまの若者に必要なのは、正解を速く出す力だけではない。むしろすぐには答えが出ない問いに向き合い続ける力、自分と異なる立場の人と話しながら前に進む力、失敗や想定外を受け止めながらやり直す力である。ドルトンX学園が重視しているのもまさにこうした力だと感じる。その力は、整えられた環境だけでは育ちにくい。地域に出ると予定通りにいかないことが起きる。思ったより話が通じないこともある。自分の考えが浅かったと気づく場面もある。逆に、何気ない雑談の中から本質が見えることもある。こうした経験の積み重ねが自分の言葉で考え、自分の足で動く力をつくる。これはテストの点数の話ではないが、長い目で見れば進路や人生の選択に大きく影響する学びだと思う。私たちNext IWATEは若者に地域を見学させたいのではなく、地域の中で当事者性を持って関わる経験を届けたいと考えている。誰かが用意した答えをなぞるのではなく、自分が関わることで状況が少しでも動く、その手応えを持ってほしい。地域の課題は重い。しかし、だからこそそこに向き合う経験は人を育てる。6.一関でやる意味、岩手でやる意味ドルトンX学園が一関市に本校を置くことには大きな意味がある。岩手県南は、都市部と比べて不便な面もある一方で、探究の対象が非常に豊かである。産業、自然、エネルギー、人口動態、交通、医療、教育、歴史、文化、コミュニティ。しかもそれらが分断されず、生活の近い距離でつながっている。複数の社会課題が現実の暮らしの中で交差しているからこそ学びとしても深い。私たちは、ここにさらに一つの価値を見ている。それは一関や岩手が「地方だから仕方ない」と諦める場所ではなく、新しい教育モデルを生み出す起点になりうるということである。教育の先進事例は大都市から生まれるという固定観念はまだ強い。しかし、社会の現実と近い距離で向き合う学びをつくるなら、むしろ地域の方が適している場面も多い。学校、企業、行政、住民の距離が近く、対話と実装を往復しやすいからである。一関で始まるこの取り組みは、単に地方に新しい学校ができるという話ではない。地域と教育の関係を組み替える実験でもある。学校が地域を使うのではなく、地域が学校と共に学びを育てる。若者が地域を訪れるだけでなく、地域の側も若者との関わりの中で変わっていく。そうした双方向の変化が起きることに、私たちは期待している。7.Next IWATEが目指すのは、「教育連携」ではなく「地域の学びの基盤づくり」私たちがこの連携の先に見ているのは、単発のプロジェクトや話題づくりではない。目指しているのは、地域そのものが継続的に学びを受け止め、育て、返していける基盤をつくることである。たとえば、地域企業が「学校から依頼が来たら協力する」存在にとどまらず、若者と共に自社の未来や地域の課題を考えるパートナーになること。自治体が制度を整えるだけでなく、学びと地域づくりをつなぐ後押しをすること。住民が外から来た高校生として眺めるのではなく、次の地域を担う存在として関わること。学校が教室外の現実を教育の中心に据えること。そうした重なりが少しずつ増えていくことで、地域に「学びの生態系」とでも呼ぶべきものが生まれていく。私たちは、一関がその中でもただの拠点の一つではなく、地域と教育の協働モデルを磨き上げる場所になってほしいと思っている。ここで積み上げた実践が岩手県内の他地域や全国の地方都市にも展開しうるからである。地域が学びの舞台となり、若者がそこで問いを持ち、地域企業や住民がその問いに向き合い、また新しい挑戦が生まれる。そうした循環を一過性ではなく、地域に根づいた仕組みとして育てていくことが大切だと考えている。8.これからの時代に必要なのは、「地域に関わる若者」を増やすことではなく、「地域と未来を共につくる関係」を増やすこと地方創生の文脈では、若者の定住率や移住者数がよく語られる。それはもちろん大切である。ただ、私たちはそれだけでは足りないと感じている。大事なのは、何人住むかだけではなく、どれだけ本気で地域と関わる人が増えるかである。高校時代に地域で実践的な学びを経験した若者が将来どこに住もうと、地域との接点を持ち続ける可能性は高い。仕事として関わるかもしれない。プロジェクトで戻ってくるかもしれない。別の地域で得た知見を持ち帰るかもしれない。そのような関係人口の質がこれからの地域にとって重要になる。Next IWATEもまた地域を閉じた枠組みで考えていない。一関を起点にしながら、他地域との連携も進めているのは、地域ごとに異なる課題に向き合いながらそれぞれに合った伴走支援モデルをつくっていくためである。教育、企業支援、自治体連携、人材育成は、本来ばらばらではない。人が育ち、企業が変わり、地域に仕事が生まれ、挑戦が次の挑戦を呼ぶ。そうした循環を設計することが、私たちの仕事である。一関から「地域が学びを育て、学びが地域を変える」未来へドルトンX学園とNext IWATEの連携は学校と企業の連携という言葉だけでは収まりきらない。これは、地域を学びの舞台として捉え直し、若者、企業、学校、行政、住民が、それぞれの立場から未来づくりに関わるための土台をつくる挑戦である。私たちは、地域を美化したいわけではない。現場には難しさがあるし、調整も手間もかかる。関わる人が増えれば、簡単に進まないことも増えるだろう。それでも、だからこそ価値があると思っている。地域の現実に触れた学びは強い。そこから生まれる問いは、簡単には消えない。そして、その問いを持った若者が一人増えることは、地域にとっても社会にとっても大きな意味を持つ。株式会社Next IWATEは、これからもドルトンX学園との連携を通じて、一関から新しい教育と地域共創の形を育てていく。地域が若者を育て、若者が地域に新しい視点と熱を持ち込み、そこからまた次の挑戦が生まれていく。そんな循環を、理念ではなく実践として積み上げていきたい。一関だからできることがある。岩手だから見える未来がある。私たちは、その未来を教育と地域のあいだでしっかりと形にしていく。執筆者:取締役 未来共創教育推進部長 阿部 凌央