昨今、ニュースや新聞で見ない日はないほど「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が溢れています。しかし、地域の現場に目を向けると、その言葉はどこか遠い国の話のように聞こえてしまっているのが実情です。あるいは、「IT=高いツールを導入すること」という誤解が根強く、それがかえって変革への心理的なハードルを高くしてしまっています。こうした地方ならではの現状を打破し、デジタルを「味方」にする。その挑戦を一関から始めたいと考えています。私たちNext IWATEは、パートナーである株式会社フォーバル、そして一関商工会議所と共に、一関市や金融機関、教育機関も巻き込んだ「産官学金」の強固な連携による「一関モデル」の構築を推進しています。この構想は、内閣府の「地方創生★政策アイデアコンテスト」において、最高賞である「地方創生担当大臣賞」を受賞するなど、全国的にも地方創生のロールモデルとして大きな注目を集めています。今回は、なぜ今このモデルが地域に必要なのか、そして私たちが実地調査で目撃した「一関のDXのリアル」について、詳しくお伝えします。1. 「一関モデル」が目指す究極の目的:自立する地域経済一関モデルは、単に企業のデジタル化を補助したり、IT化を推奨したりするだけの一時的なプロジェクトではありません。その本質は、「人材が育ち、企業が伸び、地域が強くなる」という、外部に依存しない自立的な経済循環を地域の中に実装することにあります。私たちが目指しているのは、以下の3つの要素が歯車のように噛み合い、永続的に回り続ける仕組みです :人材循環:一関高専をはじめとする地域の学生や若手人材が、地域の企業の課題解決に実際に携わります。彼らが企業の変革に伴走する「企業ドクター」として育つことで、若者が地元で働くことや、自ら起業することが特別なことではなく「あたりまえ」になる文化を創出します。企業成長:地元企業が「企業ドクター」の客観的な支援を受けることで、業務の無駄を省き、生産性を飛躍的に向上させます。これにより、地域内だけでなく域外からもしっかりと「外貨」を稼げる、強靭な組織へと進化することを目指します。地域経済の自立:一社一社の企業が成長し利益を上げることは、安定した雇用の維持だけでなく、新たな雇用の創出や賃上げへと直結します。それがひいてはスムーズな事業承継や、地域全体が潤う好循環を生み出し、一関全体が持続的に豊かになる未来を描いています。これは特定の企業が潤うための一過性の施策ではなく、一関という地域全体の「経営基盤」を根本から底上げするための挑戦です。2. 実態調査で見えてきた「一関のDXのリアル」:3つの壁私たちはこのモデルを机上の空論に終わらせないため、推進にあたって徹底的な「実態調査」を実施しました。単なるアンケートの数字を追うのではなく、実際に私たちが現場へ足を運び、経営者や従業員の皆様と対面で語り合い、今まさに直面している苦悩や想いを知ることから始めたのです。そのプロセスで突きつけられたのは、都会のビジネスシーンで語られるキラキラしたIT用語とは全くかけ離れた、地方企業が直面している「3つの高い壁」でした。① 「知らない」という知識の壁多くの経営者や現場の方々にとって、デジタルやDXは「自分たちの仕事には関係ない難しいもの」という先入観がありました。ITの言葉そのものが障壁となり、最初の一歩を踏み出すことが、非常に大きな心理的負担となっているのが現状です。② 「散らかっている」という管理の壁「会社を良くしたい、デジタル化したい」という意欲はあっても、何から手をつければいいのか分からないという声が多く聞かれました。データは存在しているものの、それが紙の伝票だったり、バラバラのExcelファイル、POSレジ、あるいは会計ソフトの中に「情報の断片」として点在しています。これらが繋がっていないため、経営判断に活用できる形になっておらず、変革を阻む大きな要因となっています。③ 「続かない」という運用の壁せっかく新しいツールやソフトを導入しても、現場の使い勝手と乖離していたり、目的が曖昧だったりするために、結局は特定の「詳しい人」に依存したまま風化してしまうケースが散見されました。役割分担やルールが不明確なまま「導入すること」がゴールになってしまい、現場の定着に至らないという現実があります。私たちの調査が導き出した一つの答えは、「地方におけるDXの入り口は、最先端のツール導入ではない。まずは実態を把握するための『足元の見える化』である」ということでした。3. 「一関モデル」はどう機能するのか:伴走と科学的サイクルこの「3つの壁」を打破し、確実に成果を出すために、一関モデルは「産官学金」がそれぞれの役割を果たしながら共創するという、ユニークな仕組みを掲げています。伴走型の「企業ドクター」経営者が一人で、あるいは自社だけで悩む必要はありません。一関商工会議所の経営指導員や、専門家、そして一関高専の学生らがワンチームとなり、企業の「健康診断」を行います。 私たちはまず、決算書などの財務データだけでなく、日々の仕事の進め方(業務フロー)や、情報の流れ(データフロー)を徹底的に棚卸し、可視化します。どこに無駄があり、何が利益を圧迫しているのか。「現状を正しく整理する」という、泥臭くも最も重要なアナログなプロセスこそが、DX成功の絶対条件です。事実に基づいた「成長サイクル」の実装一関モデルは、経営者の勘や経験だけに頼るのではなく、「事実(データ)」に基づいた経営(EBPM)を地域に定着させます。 企業実態の把握:現場のリアルな声とデータを収集し、課題を浮き彫りにします。可視化と構造整理:複雑に絡み合った課題を構造的に整理し、優先順位を明確にします。伴走支援の実行:売上の拡大や生産性の向上に向け、具体的な施策を二人三脚で実行します。成果の反映:支援を通じて得られた知見を市の政策や制度の改善にフィードバックし、地域全体の活性化を加速させます。このサイクルを継続的に回し続けることで、エビデンスに基づいた、持続可能で再現性のある産業振興を地域全体で実現します。4. 私たちが目指す「3年後の景色」:地域内での自走一関モデルが描く最終的なゴールは、私たちのような専門家がいなくても地域が回り続ける「地域内での自走」にあります。現在は、専門的な知見を持つ私たちが先導していますが、3年後には、一関商工会議所の経営指導員や地元で育った学生たちが、自ら現場の課題を見つけ出し、ロードマップを策定できる体制を築くことを目指しています。外部の助けがなければ立ち行かないモデルではなく、地域にいる想いを持った人が、地元の企業の未来を自分たちの手で描き、支え続ける。そんな「あたりまえ」の日常を創ることが、私たちの本当の願いです。結びに代えて:551社の黒字化が変える未来一関モデルは、まだ始まったばかりの挑戦です。しかし、私たちのパートナーである株式会社フォーバルの支援実績では、債務超過ではない営業赤字の企業の約4割が黒字化に成功するという確かなデータがあります。これを一関市の実態に当てはめると、非常に大きな、そして具体的な希望が見えてきます。2021年のRESASデータによれば、一関市内の企業数は3,459社です。国税庁の「会社標本調査」によると、全法人に占める欠損法人(赤字法人)の割合は約6割にのぼります。国税庁の統計および地域特性を考慮した推計では、このうち「債務超過ではない赤字企業」は約1,377社存在すると考えられます。もし、一関モデルの伴走支援によってそのうちの4割が黒字化を達成できれば、実に551社もの企業が黒字に転じる計算になります。この数字は、単なる利益の増加ではありません。働く人々の笑顔が増え、家族が安心し、地域のお店が賑わうという、新しい未来の姿です。私たちが現場で出会うのは、課題に直面しながらも、地域のために、仲間のために、必死に汗を流している経営者と現場の皆様です。その想いをデジタルという「強力な道具」で支え、地域の未来を力強く引っ張る企業が次々と生まれる未来を創りたい。「一関から新しいあたりまえを」Next IWATEは、これからも地域の皆様と共に、一歩ずつ、しかし確かな歩みを進めてまいります。注記市内企業数:2021年RESAS(地域経済分析システム)より抽出。債務超過ではない赤字企業数の算出根拠:国税庁「会社標本調査」による欠損法人率(約61.0%)から、帝国データバンク「『ゾンビ企業』の現状分析―2026年1月最新版」による岩手県のゾンビ企業率(実質的な債務超過率:約21.2%)を控除して推計。3459×(0.610-0.2112)≈1377黒字化可能企業数の算出:推計された対象企業(1,377社)に、債務超過ではない赤字企業の黒字化達成率(40%)を乗算。1377×0.40≈551収益改善実績(40%)の引用元:Bridge Salon ブリッジレポート(株式会社フォーバル)2026/04/08執筆者 取締役 共創変革伴走支援部長 兼 本社営業部長 佐々木 優人